大阪地方裁判所 昭和25年(ヨ)797号 判決
申請人 岡正弘 外二名
被申請人 川村工業株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
申請人等が被申請人に対して保証として各金三千円を供託することを条件として被申請人は申請人等の被申請人に対する解雇無効確認訴訟の本案判決確定に至るまで申請人等を被申請人の從業員として取扱い、且つ申請人等に対して昭和二十五年四月二十一日以降毎月二十八日に別紙記載の賃金の割合による金員を支払わねばならない。
訴訟費用は被申請人の負担とする。
三、申請の趣旨
申請代理人は主文同旨の判決を求めた。
四、事 実
申請代理人は申請人等は何れも被申請人川村工業株式会社(以下会社と略称する。)の從業員であり、且つその從業員をもつて組織する全日本金属労働組合大阪支部川村工業分会(以下第一組合と略称する。)の組合員であつて、各人の会社における地位職名在職年数賃金額組合における地位役名は別紙記載の通りであるが、会社は申請人等三名に対して昭和二十五年五月七日附を以て解雇する旨の意思表示をなした。しかしながら右解雇の意思表示は左に述べる理由に依り無効である。
即ち前記第一組合は昭和二十五年三月一日申請人等が中心となつて申請人Cの私宅において結成したものであつて、その後も申請人等が中心となつて指導運営して來た所、会社は同年四月三日経営不振を理由に一人平均金千円宛の賃下をする旨組合に通告し一方的に之を強行したので、組合は右措置を不当とし会社に対して団体交渉を要求しそれ以來折衝を続け、申請人等は組合員の先頭に立つて活動した。然るに会社は組合を切崩して右交渉を挫折させようとして先ず同月十八日同会社の営業課長下岡孝三郎を組合長、副工場長鈴木勘一を副組合長とする川村工業株式会社從業員組合(以下第二組合と略称する。)を結成させると共に、之等の者をして第一組合に対し第二組合之加入を脅迫的言辞を以て勧誘せしめ、之に失敗するや申請人等の組合における地位活動状況に着目して之を排除すべく申請人等を解雇した。しかしこの様な解雇は正当な組合活動をしたことを理由とするものであつて労働組合法第七條に違反する不当労働行爲として無効である。
以上の理由で申請人等は被申請人に対して解雇無効確認の本案訴訟を提起すべく準備中であるが申請人等は給料生活者であつて本件解雇に依り事実上收入の途を断れ、日々の生活に窮し本案判決確定迄待つわけにいかない事情にあるから本申請に及んだ次第である。
尚賃金は毎月二十日締切二十八日拂になつていると述べ、被申請人の主張に対し就業規則は無効である。仮に有効としても申請人等に就業規則違反の事実はないしかような事実があつたとしてもそれは申請人等に限つたことではなく從業員全般に行われていたことであると述べた。(疎明省略)
被申請代理人は本件申請は却下する。申請費用は申請人等の負担とするとの判決を求め、その答弁として次ぎの通り述べた。申請人等が昭和二十五年五月七日迄被申請人の從業員であり、その主張の如き賃金の支拂を受けていた事由、申請人等が第一組合の組合員であつたこと、第二組合が申請人主張の日に結成されたこと、被申請人は申請人等主張の日にその主張の如き賃下を発表したこと、及び申請人等に対してその主張の日附を以て解雇の通告を認めるが右解雇は申請人等が就業規則違反を繰返していたこと及び業務上の都合を理由とするものであつて組合活動をした事を理由とするものではない。
即ち本件解雇に当つては会社は全從業員について就業成績考課表を作成したのであるが申請人等三名は何れも成績最下位であり且つ申請人等は出勤の遅刻回数多く、タイムカードを他人に打刻せしめ、又屡々職場を離脱し工場内において私物を作成する等就業規則違反の事実があつたので昭和二十五年五月二日被申請会社大阪営業所において審査委員会の議に諮り愼重審議の結果解雇するに至つたものであるから本件解雇は有効である。
尚被申請会社において第一組合の役員として報告を受けたのは申請人中ではA一人であり他の二名は解雇後に不当労働行爲たるの外観を裝うために役員の地位についたものと考えられる。而して第二組合は第一組合のやり方の破壞的である事に憤慨した眞面目な從業員が自主的に結成したものであつて会社の誠意ある立場、現下の企業の状態における從業員としての在り方を正当に理解し会社に協力せんとしているに過ぎない。
又第二組合結成の中途において組合員勧誘のことは一、二事例があつたことは認めるが、脅迫的に加入を勧誘したことはない。しかもこのことは会社の意図に出たものでなく会社としては何ら之に関與していないと述べた。(疎明省略)
五、理 由
申請人等は何れも昭和二十五年五月七日迄被申請会社の從業員であり且つ第一組合の組合員であつた事被申請会社は申請人等三名に対して昭和二十五年五月七日附で解雇の意思表示をしたことは当事者間に爭いがない。よつて右解雇が申請人等の主張ある不当労働行爲であるか否かについて判断する。
(1) 申請人Aに対する本人訊問の結果に依り眞正に成立したものと認められる疏甲第一号証及び証人井上秀雄の証言、申請人A同Cに対する各本人訊問の結果を綜合すれば
(イ) 第一組合は申請人等が中心となつて昭和二十五年三月一日申請人Cの私宅において結成されたもので、それ以來申請人Cは執行委員、同Aは会計調査同年四月二十六日の改選以後は書記長、同Bは執行委員前記改選後は会計兼委員として夫々組合の指導運営に当つて來たこと、殊に組合事務所貸與問題については申請人等は再三会社と交渉していたこと更に昭和二十五年四月三日会社より平均月千円の賃下げが発表されるや第一組合は翌日反対の回答をすると共にその後二回に亘り団体交渉を行つたのであるが申請人等が主として組合を代表して会社と折衝に当り団体交渉を申入れ、資金の提出を要求し又上部団体である全日本金属労働組合大阪支部へ相談に行く等組合の賃下反対鬪爭の先頭に立つて相当活溌な活動をしたこと並に本件解雇が右賃下に関して予定された第二回団体交渉(同五月九日)の直前に行われたこと。
(ロ) 第二組合は前記鬪爭の最中である昭和二十五年五月十八日に結成され、而かも該結成当時の正副当組合長は後に同年五月九日第一組合との団体交渉には会社側の利益代表として出席していた営業課長下岡孝三郎副工場長鈴木勘一であつたこと、同人等は第二組合結成の途次、第一組合員就中申請人Bに対し第二組合えの加入を執拗に勧誘したが拒絶せられた事。会社は第二組合にはその結成後直に組合事務所を貸與し乍ら第一組合に対しては数度の申入れあるに拘らず今尚貸與するに至らないこと、又昭和二十五年四月末より五月初旬にかけての休祭日には第一組合員にはその要求を拒否して就業せしめなかつたに拘らず第二組合員のみ就業せしめた等両組合に対する取扱について相当差別遇をしていること、副工場長が第一組合が産業別組合会議に加入している事を嫌つて、その脱退を條件に賃下反対に妥協することを申入れていること。
が孰れも認められるのであつて、以上の諸事実を綜合するときは被申請会社はその賃下案に対する第一組合の交渉を挫折させるため第二組合を結成させて種々第一組合の勢力を減殺する挙に出たのであるが事成らず遂に第一組合の中心勢力として活動している申請人等を解雇するに至つたものであつて右解雇は申請人等の正当な組合活動を理由としたものである事を窺うに充分である。
(2) 被申請人は本件解雇は申請人の就業規則違反の行爲並びに会社の業務の都合によるものとし、その疏明に供する証人下岡孝三郎、同池田敬一の各証言により眞正に成立したものと認められる疏乙第三号証の一、二成立に爭のない疏乙第四乃至第六号証の各一乃至六前記両証人及び証人迫田森三の各証言に依れば被申請会社は本件解雇の直前である昭和二十五年五月二日に解雇人員及び該当者を決定するために全從業員について就業成績考課表を作成したのであるが、右考課表上の成績は申請人等が何れも最下位であり、又申請人等は何れも遅刻回数多くタイムカードも他人に打刻せしめ或は職場を離脱し私物を作成したこと等があつたことは認められなくはないが、証人井上秀雄の証言、申請人A、同Cに対する各本人訊問の結果に依ればタイムカードは職場毎にまとめて打刻する職場の慣習となつて居り、職場離脱の如きも鍛工場の熱気に耐えかねて時々道路に出て冷やす程度にすぎず、而かも他の者もやつて居り、私物作製は申請人に限らず職場の流行になつていたこと、並びに本件解雇後に会社において求人募集公告をしている事実さへ認められるのであつて、人員縮少の必要性など全く窺れず又申請人等の所爲も特に解雇に値するが如き不良行爲とは認めがたい事、前記考課表は解雇直前に主として解雇事由の裏付けのために作成せられたものと推定する事が出來前段認定の事実と対比考量するときは被申請人はその主張する前示事実をもつて本件解雇の理由となす眞意であつたとは到底考えられない。
以上認定の次第であるから本件解雇は労働組合法第七條第一号所定の不当労働行爲に該当し無効であると云わねばならない。而して申請人等は毎月二十日締切で二十八日に別紙記載の賃金支拂を受けていたことは当事者間に爭がないから申請人等は被申請人に対して毎月右金員の支拂を請求する権利を有するものといわねばならない。
尚解雇が無効であるにも拘らず被解雇者として取扱われることは給料生活者である申請人等にとつて回復すべからざる損害であることは容易に考えられるところであるからかかる現在の危險をさけるためその從業員としての仮の地位を認め賃金支拂を命ずる仮処分をなす必要があるものと考えられる。
よつて申請人等の本件申請を妥当と認め訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 坂速雄 宮川種一郎 小林定人)
別表<省略>